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名古屋家庭裁判所一宮支部 昭和51年(少一)113号 決定

少年 G・Y子(昭三四・一・三一生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五一年一月二六日ころ、肩書住居を家出して、暴力団組員○口(当時三〇歳位)の紹介で大阪市天王寺区○○町××番地××マッサージクラブ「○○○○」の売春婦となり、同年二月二日午後八時三〇分ころ、同区○○町××番地の×ホテル「○○」において売春行為中を警察官に補導されたもので、自己の徳性を害する行為をする性癖があり、このまま放置すればその性格、環境に照らして将来罪を犯す虞れがあるものである。

(適用法条)

虞犯 少年法三条一項三号ニ

(処遇)

(1)  少年は昭和四九年一一月ころ高校を一年途中で退学し、以来喫茶店のウエートレス等を転々とした挙句、本件で売春婦として稼働中を補導されたもので、昭和四九年九月には窃盗事件にて当庁で審判不開始にされ、高校中退後の昭和五〇年五月には男友達と九州に家出して同人と窃盗事件を敢行し、当庁で不処分に付された前歴もあり、少年の嘘言癖と保護者の無関心かつ表面をとりつくろつて実体を明らかにしたがらない態度によりその詳細は詳らかでないが、中学校卒業後の少年の生活は相当乱れていたと考えられる。

(2)  本件は享楽的な生活を志向して金銭のために自ら進んで売春行為、しかもそれを職業とする売春婦になることを決意してなしたもので、知人の暴力団員の○口から紹介を受けるやただちに応じているし、売春をなしたことについて審判時に至るも「病気をもらうのがこわかつた」とか、「年寄り相手がいやだつた」とか、肝心の性的自由を金銭で売り渡したことについての反省はほとんど認められず、また少年の供述によれば中学校二年ころから不純異性交友の経験も多数回あり、昭和五〇年一一月末ころから数回売春行為をしたとのことであり、性モラルの低下は著しいものがあるといわなければならない。

(3)  加えて少年の性格の偏りは大きく、社会性未熟で極めて自己中心的であり、深い思慮もなく欲望のおもむくまま自由気ままにふるまうだらしない生活様式が身についており、金銭に対する執着心が異常に強いなど価値観の面でもかなり強度な歪みがみとめられる。

(4)  少年の両親は少年が幼少時より共働きで、少年はいわゆる一人つ子として育てられたものであるが、上記少年の資質上の欠陥はその養育態度による影響が大きいと思われ、家庭内の人間関係、特に夫婦間の関係、また母親の金銭に対する考え方にかなり問題があるのではないかと推量され、現在でも家族のまとまりはほとんどなく、少年の家庭からの離反傾向を考えあわせると保護者の指導力にはほとんど期待できないものといわざるをえない。

(5)  以上少年の性格、資質、これまでの非行歴、家庭環境等勘案すると将来再非行の危険性は十分考えられこれらの事情に加え、少年は鑑別所での生活体験を経た現在でも本件についてかなり安易に考えており、他からの指導を素直に受け入れる構えも更生への意欲もほとんどないと認められるので、在宅保護による矯正はきわめて困難で、この際早期に施設に収容して、その専門的指導の下に、規律ある生活のなかで基本的な生活習慣を身につけさせ、性格の矯正をはかり自己の尊厳性を自覚させることが相当であると思料する。よつて少年を中等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

ただし、少年の性格の偏りは大きいが、いまだ非行性が固着化しているとは認められないので、入院後原則として四ヶ月をもつて仮退院の処置がとられる「短期処遇課程」における矯正教育を受けさせることが相当であると判断し、少年審判規則三八条二項により、上記の勧告をする。

(裁判官 打田千恵子)

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